授業が始まる10分前。
教室へ移動していたら、
学校前の路面電車の駅から「先生〜」って声がする。
見ると1年前卒業して、広島の大学に進学した学生が手を振っていて、びっくり。
信号が青に変わり彼女は走ってやってきた。
「どうしたの?」と聞くと、「先生に会いにきた」と。
でもね、これから私は授業なの。
「来る前に連絡してくれればよかったのに」と言うと
「メールしたよ」って。
メール?届いてないなぁ…。
(後でわかったことだけど、彼女はPCのアドレスにメールしていた)
「いつ広島に帰るの?」って聞いたら「今日」って。
わざわざ私に会うためだけに来てくれたのに、この再会って…。
「また来ることあるかな?」って聞いたら、
「今月末にバイトで帰ってくるから、
その時、先生会いましょう」って。
うん、そうしましょう。
そうこうしてるうちに授業開始の時間が近づく。
「ごめんね、これから授業だからさ。
教務室に他の先生たちがいるからさ、会っておいで」と言って別れた。
授業が終わって教務室に戻ると1通の手紙が。
あまりにも達筆で覚えもなかったから、日本人から?と思っちゃって、
「私何かしでかしたかしら?」とまで思ったよ。
封筒の裏を見ると去年担任した学生からでした。
そういえば、卒業組は今週で授業が終わり。
今年は卒業組担当じゃないから、すっかり忘れてたけど、
手紙のシーズンだったんですね。
今年は卒業組担当じゃないし、 彼らが新入生の時も教えてないから、
手紙をもらえるなんて思ってもみなかった。
唯一去年教えた学生が1人。
その彼からでした。
もらえるなんてこれっぽっちも思ってなかったから、
なぜか、それはそれはいつも以上にうれしかったよ。
「数えて、先生はまだ私の第3番目の先生ですが、
でも先生と接していた日々が一番だと思いました。
私は先生の指導の下で成長してきました。
先生の詳しい授業をどう受けても、飽きられないと思います。
先生はまだお覚えていますか。
日本に来て初めての母の日、
私は先生にメールを届いていってしまいました。
今、考えてみると本当に失礼な話ですけど、
本当におもしろかったと思います。
先生のメールのアドレスは私の携帯の初めのアドレスでした。
相談相手がいらっしゃるこそ、
その時の気持ちはそんなに心細くなかったのでした。
ありがとうございました。先生の返信は今でも私の心を打つものです。
その事件のおかげで、他の先生にからかわれたのでしょう。
「息子さん、息子さん」と言われて恥ずかしかったのですけど、
本当に気持ちがよかったのです。
ただ、その時から、もう一人ぼっちではなかったのです。
申し訳ないですが、先生のクラスを離れて、
あまり連絡をとらなかったのです。
でも、先生のことを忘れるわけではありません。
先生と会った時、ちゃんとあいさつしたりして、できるだけ、
自分は自分なりの方法で、先生への気持ちを伝えていこうと思います。
先生は毎日、まだニコニコしていますか?まだ生き生きでしょうか?
会ったたびにいつも自分の目で確認しました。
今、進学のことで迷ったり、悩んだりして、
先生も全て気づいていただきました。ありがとうございます。
先生の励ましての下で、私はもっと自分の信念を強くしました。
この2年間、いろいろ、本当にお世話になりました。
ありがとうございます。
これから、いつでも、どこでも、先生の笑顔を忘れないように、実は、私がそう思いました。ありがとうございます。」
彼も書いてる「母の日メール事件」。
覚えているよ。
私にとってもインパクトの強い事件で、
いろんなところに書き記したし、いろんな人にも話したし。
でも、その時の彼の気持ちやその後のことは知らなくて、
手紙を読んでびっくり。
そして何よりびっくりしたのは、
彼にとって「あいさつ」にそんな意味があったってこと。
思わず考えてしまったよ。
彼の目に私はどう映ってたのかなって。
彼の担任だったのはわずか4ヶ月。
教えていたのは半年ほど。
全く教えなくなってからのほうが長いから。
彼は私に多くを話すタイプの学生ではなかったし。
離れてから話したいと言ってきたことは一度だけ。
担任の先生と進学のことを話す前に、先生と話したいと。
それもままならなかったけど。
そんな彼だったけど、
彼のことは彼の周りにいる学生たちから耳に入ってはきていた。
みんなと同じように悩み、苦しんでることがね。
そしてどちらかというと、
私のほうが彼にお願いをすることが多かったり。
だから学校でも会った時にさらっと世間話をする程度だったんだけど。
そんなに深い意味があったのか。
学生に「何かいいことあった?」と言われたこともあるし、
「今日はどうした?」と心配されたこともあるし、
「寝てないよね。今日は二重が太いし」とまで言われたことのある
わかりやすい私。
彼の目に私はどう映ってたのかなって。
特に2008年度の前半の私は精神的にも不安定だったからね。
実は、この手紙をもらった数日後、
彼は再びコンタクトを取ってきたの。
「大学の入試の前に、先生と話したい」と。
大事な節目の時には必ず連絡してくるんだね。
私はOKし、そしてこの手紙の返事を書いた。
その時渡そうと思って。
そして午後から入試のために出発するという日の朝、
彼と話すこと1時間。
久しぶりに充実した中身の濃い時間に感じたよ。
私が書いた手紙を持って、彼は出発して行きました。
そして昨日の朝、彼から「先生、今日、学校にいる?」とメールが。
残念ながら、入試は不合格だったらしく、
今年の留学試験を受けたいと。
昨日は授業もないし、美容院の予約を入れてて学校に行けないし、
願書は学校にあって担任の先生もいるし、
お願いしたら?と言ったところ、
ショックで自分に自信もなくなったし、会わせる顔もないし。
だから、先生よろしく、って。
…今日、会うことになりました。

